個人事業者の方が持続化給付金を申請するためには、2019年分の確定申告書を提出していることが必要です(例外として2018年分でも可能な場合があります)。
そのため、持続化給付金を受け取ることを目的として、今まで無申告だった方が2019年分だけを確定申告したいというご依頼が多くなっています。
しかし、多くの方が確定申告した後にどのような影響が出るのかを理解せずに申告しようとしている方が多いのです。
今まで無申告だった方が、急に確定申告をした場合には、4つの大きな落とし穴があることを十分に理解してから、確定申告書を提出していただければと思います。
そこで今回は持続化給付金をもらうためだけに確定申告する場合の落とし穴を実際にあった会話をもとに紹介したいと思います。
1.確定申告すれば持続化給付金がもらえる?

友だちから持続化給付金を申請できるって聞いたんだけど、確定申告してない私でもできますか?

持続化給付金は「前年同月比で事業収入が50%以上減少した月が存在すること」などの一定の要件を満たしていれば申請は可能ですが、その証拠資料として個人事業者の場合2019年分の確定申告書を提出することが必要です。

確定申告なんてしたことないし、私は持続化給付金はもらえないのかぁ。

そんなことはありません。
確定申告は原則翌年3月15日が提出期限となっていますが、提出期限を過ぎても自主的に確定申告書を提出することは可能です。
つまり、今からでも2019年分の確定申告書を提出することはできますので、持続化給付金の申請も可能です。

じゃぁ、今からでも2019年分の確定申告書を提出すれば、持続化給付金100万円がもらえるのかぁ。すぐ確定申告書を提出します!

ちょっと待ってください!
確定申告すると様々な税金を支払う可能性がありますよ。

「様々な税金」って、確定申告で納付するのは所得税だけじゃないの?

違います。
確定申告することによって所得税だけじゃなく、住民税や健康保険料が増額する可能性があります。
さらには、過去の無申告だった分や、将来確定申告することがほぼ強制される可能性だってあります。
持続化給付金100万円をもらおうとして、100万円以上の税金を払うことになる可能性だってあるんです。

えー!

税理士として無申告であることを推奨するわけではありませんが、しっかりと「確定申告をするとどのような影響があるのか」を理解してから確定申告してください。
2.落とし穴①所得税がかかる

まず、確定申告するとすぐに納付が必要となるのが所得税です。

所得税ってどのぐらいかかるんですか?

収入がどのくらいかにもよりますが、少ない方でも5%、多い方だと45%の税率になっています。

45%!税金で約半分も取られるの?!

心配はいりません。
収入に税率をかけるわけではなく、経費や所得控除といったものを控除した後の「課税所得」に対して税率をかけます。
さらに、45%の税率がかかるのは課税所得が4,000万円以上の方だけですので、多くの方が5%から20%くらいの税率になります。

それなら何とかなりそうです。
具体的に確定申告書はどうやって作ればいいのでしょうか?

今回は2019年分の確定申告書を作るということなので、2019年の収入、経費のわかる通帳コピーや領収書などを集めてください。
そこから年間の収入と経費を集計します。

収入は何とか集計できましたが、経費については領収書を捨ててしまっていたので何もわかりませんでした。

もともと確定申告することを予定していなかった方はたいていそうなります。
この場合、思い出せる範囲で交通費や通信費などを領収書なしで集計してもらっても構いませんが、万が一税務調査などがあった場合には正直経費は0円とされる可能性があります。
今回は経費は0円ということで話を進めていきたいと思います。

経費が控除できなくても、所得控除ってのを控除できましたよね?

そうです。
ただし、所得控除も一定の資料がないと控除できません。
たとえば、生命保険料控除というのを受けるためには生命保険会社の「生命保険料控除証明書」が必要ですし、医療費控除を受けるためには「医療費の領収書」が必要です。
証明資料なしで受けれる控除というと、だれでも控除できる基礎控除38万円と、国民健康保険などの社会保険料控除くらいです。

何も資料は残していないし、健康保険料は払っていなので、基礎控除だけ控除します・・・。

ここまでやって所得税の計算ができます。
収入ー経費ー所得控除=課税所得
課税所得 × 税率 =所得税

私の場合、
収入300万円ー経費なしー所得控除38万円=課税所得262万円
課税所得262万円 × 税率 = 165,500円
結構、所得税って高いですね・・・。

まぁ、経費も所得控除もほとんど控除できてませんからね・・・。
また、大変申し訳ないのですが所得税のおまけに復興特別所得税というものが付きます。
所得税に対して2.1%でかかります。

ってことは、先ほどの所得税165,500円の2.1%で約3,400円が追加されるってことですね。
所得税だけで持続化給付金の15%くらい払うことになりますね。
3.落とし穴②住民税がかかる

確定申告することによって払う税金は所得税だけではありません。
住民税もかかることになります。

住民税って毎年6月くらいに市役所から送られてくるやつですよね?
あれって確定申告と何か関係があるんですか?

確定申告書自体は税務署に提出しますが、税務署から申告者のお住いの市区町村に情報が提供されて、皆様のご自宅に住民税の納付書が届くシステムになっています。
したがって、確定申告すると収入があることが市区町村に伝わり、住民税が増額する可能性があります。

私の知らないところで個人情報が・・・。
では、住民税はいくらくらいかかりますか?

住民税の税率は一律10%です。
ただし、所得控除については所得税と住民税で少し違うところがあります。
一つ一つお伝えするのは難しいので、今回は所得税の課税所得に税率をかけたもので計算しましょう。大きくは変わらないと思います。

所得税の課税所得は262万円だったので、税率10%をかけると・・・。
262,000円!?所得税より高いじゃないですか!

そうなんです。
所得税は課税所得が195万円までは5%の税率なので、所得税より住民税が多くなる方も多くいらっしゃいます。
課税所得が4,275,000円以下の方は、所得税より住民税が多くなります。

所得税が165,500円、復興特別所得税が3,400円、住民税が262,000円。
この時点で納付が必要になるのは430,900円。
まだ、何かかかるの・・・。
4.落とし穴③健康保険料がかかる

ここまでで、結構うんざりされるかもしれませんが、まだかかるものがあります。
それは健康保険料です。

健康保険料も住民税と同じ時期に市役所から届きますよね。

はい、基本的には住民税と同じ流れで各市区町村が計算した納付書を皆さんにお送りしています。
つまり、確定申告すれば健康保険料も増額されるわけです。

健康保険料はおいくらになりますか?

お住いの市区町村や、その方の年齢にもよりますがだいたい10%くらいです。
ざっくり計算するならば住民税と同じくらいと考えていただければと思います。

ということは、住民税262,000円と同額がさらに健康保険料としてかかってくるんですね・・・。
所得税や住民税とか全部合わせると約70万円くらいの支払いが必要ってことは、持続化給付金はほとんど手元に残りませんね。
もう、他に支払うものはないですよね?
5.落とし穴④将来過去の確定申告が必要になる

まずは、持続化給付金は「今後も事業を継続する意思があること」という要件があるため、今年の2020年分の確定申告をすることがほぼ必須となってきます。
確定申告しなければ税務署から連絡が来る可能性があり、事業を辞めたと言えば持続化給付金の不正受給として疑われることになります。

ということは、2020年分も確定申告することで、また約70万円の支払いが必要になるんですか?

2020年分も2019年分と全く同じ内容で確定申告すればそうなります。
ただし、2020年分はおそらく収入は少なくなっているはずですし、今度はしっかりと経費の領収書などを保存してもらえれば、かなり支払いは抑えられるはずです。

では、2019年分と2020年分はちゃんと確定申告すれば2021年分からは確定申告しなくてもいいですね。

いえ、税務署を甘く見てはいけません。
2019年分を確定申告した方がいて、開業届や青色申告の届出などが出ていない場合、税務署は「おや、この人2018年にも収入があったんじゃないか?」と思うはずです。
そのため、2018年以前の収入について確定申告をするように求められる可能性があります。
また、2019年と2020年に確定申告していた方が、2021年からぱたりと確定申告をしなくなったら「おや、この人2021年にも収入があるんじゃないか?」と思うはずです。
したがって、2021年以降は申告しないで大丈夫とは思わない方がいいと思います。
6.所得税・住民税・健康保険料のシュミレーション

今まで、所得税や住民税・健康保険料を計算しましたが、私の場合は持続化給付金をもらうために確定申告すると、逆に支払いの方が多くなる可能性が高いことが分かりました。
じゃぁ、いったいどのくらいの収入の人だったら得になるんでしょうか?

経費はなし、所得控除は基礎控除38万円のみという相談者様と同じケースで試算してみたのが下記の表です。


表を見ていただくと年間の収入が100万円に近いほうが、持続化給付金から税金などを支払った後の手取り額が多くなることが分かります。
もちろん、経費が全くないものとして試算しているため、どれだけ経費を控除できるかによっては年間収入が400万円以上でもプラスとなる可能性はあります。
7.まとめ
今回は持続化給付金をもらうためだけに確定申告する場合の落とし穴について紹介いたしました。
最後までお読みいただけた方は、おそらくご自身が確定申告して持続化給付金を申請した方がよいのか、それとも申告することによって支払う税金が多くなってしまうのかがわかったのではないかと思います。
ただし、会話内でもあったとおり、税理士としては無申告であることを推奨するわけではなく、できれば支払う税金が多くなったとしてもしっかりと確定申告をすることおすすめしております。
無申告の方は「申告したらこんなに税金を払わなければいけないのか」と思うかもしれませんが、そもそも確定申告することは国の法律で定められている義務なのです。あくまで、納付しなくてすんでいるのは税務署が見逃しているだけで、いつか申告・納付を要求される可能性があります。
一方、今回の持続化給付金に関連して、悪徳な業者によくわからないうちに自分の確定申告書を提出され、法外な報酬を請求されるという事件がニュースなどで公表されているため、一人でもそういった被害者を減らせればとの思いでこの記事を執筆いたしました。
誰かのお役に立てればと思います。