【賃上げ促進税制】中小企業向け賃上げ促進税制の概要

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中小企業向け賃上げ促進税制は、資本金の額や従業員数の少ない法人・個人事業主しか利用できませんが、「全企業向け」や「中堅企業向け」に比べて控除割合は上乗せまで含めると15~45%と高めになっています。
さらに、令和6年度改正により、税額控除を受ける金額が控除上限額(法人税額又は所得税額の20%)を超える場合には、控除しきれなかった金額を5年間繰り越すことが可能となりました。

【目次】
適用対象
必須要件
控除割合
繰越控除措置
上乗せ要件

※本記事は2025年3月14日時点の情報です。最新の情報は中小企業庁ホームページなどでご確認ください。
※本記事についての質問・相談は一切お受けしておりませんので、電話・お問い合わせフォームなどからのご連絡はお控えください。

適用対象

中小企業向け賃上げ促進税制の適用対象は、法人であれば中小企業者等、個人事業主であれば常時使用する従業員数が1,000人以下の事業主が対象となります。

中小企業者等とは資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人で、以下に該当する法人を除きます。
・前3事業年度の所得金額の平均額が15億円を超える法人
・資本金の額又は出資金の額が1億円超の法人から、1/2以上の出資を受ける法人
・資本金の額又は出資金の額が5億円以上の大法人による完全支配関係がある法人等から、1/2以上の出資を受ける法人
・2以上の大規模法人(資本金の額又は出資金の額が1億円超の法人や、資本金の額又は出資金の額が5億円以上の大法人による完全支配関係がある法人等)から、2/3以上の出資を受ける法人

必須要件

中小企業向け賃上げ促進税制の必須要件は、「雇用者給与等支給額が前事業年度より1.5%以上増えていること」です。

「雇用者給与等支給額」とは、適用事業年度におけるすべての国内雇用者に対する給与等の支給額をいいます。ただし、補塡額がある場合には給与等の支給額から控除します。

誤解されやすいのが「国内雇用者」には役員、使用人兼務役員、役員と特殊関係者(親族など)は含まれないという点です。
そのため、親族のみで経営している法人が役員報酬や給与を増額したとしても、それらは雇用者給与等には該当しないため賃上げ促進税制を適用することはできません。

一方、パート、アルバイト、日雇い労働者については国内雇用者に該当するため、それらの方の給与が増額したのであれば賃上げ促進税制を適用できる可能性があります。

具体的に1.5%以上の増加があるかは、下記の計算式により判定します。

中小企業庁「中小企業向け賃上げ促進税制ご利用ガイドブック」(令和6年9月20日更新版)8頁より

したがって、「適用事業年度の雇用者給与等支給額」から「前事業年度の(比較)雇用者給与等支給額」を差し引いて増加額を計算し、その増加額を「前事業年度の(比較)雇用者給与等支給額」で割った割合が1.5%以上となっていれば適用することができます。

上記のような計算方法のため雇用者給与等支給額の総額が少ないうちは比較的少額の賃上げでも要件を満たすことができますが、雇用者給与等支給額の総額が多くなると多少の賃上げでは要件を満たせなくなります。

また、国内雇用者に対する給与等の支給額で判定することから、基本給のベースアップを行ったとしても離職者等で年間の給与等の支給額が減少してしまった場合には、賃上げ促進税制を適用できなくなることがあるため注意が必要です。

控除割合

以下の表で税額控除する金額を計算しますが、適用事業年度の法人税額又は所得税額の20%が上限額になります。

【適用要件】
雇用者給与等支給額が前事業年度より
【控除割合】
控除対象雇用者給与等支給増加額のうち以下の割合を税額控除
1.5%以上増加15%
2.5%以上増加30%

上記のように雇用者給与等支給額が前事業年度より1.5%以上増加していれば適用することができますが、実際に税額控除する金額は控除対象雇用者給与等支給増加額の15%または30%となっています。

「控除対象雇用者給与等支給増加額」とは、適用事業年度の「雇用者給与等支給額」から前事業年度の「(比較)雇用者給与等支給額」を差し引いた金額をいいます。

なお、上記にも記載しているとおり適用事業年度の法人税額又は所得税額の20%が控除上限額になります。したがって、適用事業年度において法人税額又は所得税額が0円の場合には、控除上限額は0円となるため、適用事業年度の税金は減少しません。しかしながら、以下で説明する繰越控除措置があることにご注意ください。

また、雇用安定助成金を受けている場合や、地方活力向上地域等において雇用者の数が増加した場合の税額控除制度(地方拠点強化税制における雇用促進税制)の適用がある場合には、上限額などに所要の調整が必要になります。

繰越控除措置

令和6年度改正により中小企業向け賃上げ促進税制について「賃上げを実施した年度に控除しきれなかった金額を5年間繰越すことが可能」となりました。

これにより、赤字の企業であっても将来のために控除額を繰越しておき、黒字となった際に同制度を利用して納付する税金を減らすということができるようになりました。

また、法人税額又は所得税額の20%という控除上限額を超えてしまい、適用事業年度において全額を控除することができなかった場合も、この繰越控除措置により翌期以降に控除することが可能になりました。

一方、この繰越控除措置をするためには、その給与が増加した適用事業年度において控除金額や繰り越す金額を計算した明細書を作成し、確定申告書に添付し提出する必要があります。したがって、「今期は赤字で納付する税金もないから、賃上げ促進税制は気にしなくても大丈夫」というわけにはいかず、赤字であっても賃上げ促進税制の適用があるかを判定する必要が生じます。

また、繰り越した控除額を使うときにも注意が必要で、繰越した控除額を使用する事業年度において、雇用者給与等支給額が前事業年度より増加している必要があります。1.5%以下の増加で良く、とにかく増加していれば過去の控除しきれなかった金額を使用することができます。

さらに、「適用事業年度の控除額」と「過去から繰り越された控除額」がある場合は、「適用事業年度の控除額」を優先して控除します。また、「過去から繰り越された控除額」を控除する際は古い事業年度のものから控除することが可能です。

以上のとおり、5年間の繰越控除措置ができるようになったことにより、多くの中小企業が適用できる可能性が増えました。

上乗せ要件

【教育訓練費】
以下の①②を満たす場合には税額控除率を10%上乗せ
①教育訓練費の額が前事業年度より5%以上増えていること
②適用事業年度の教育訓練費の額が雇用者給与等支給額の0.05%以上であること

【子育てとの両立・女性活躍支援】
以下の要件を満たす場合には税額控除率を5%上乗せ
適用事業年度終了の時(法人)又は適用年の12月31日(個人事業主)において、プラチナくるみん認定(プラチナくるみんプラス認定も含みます。)又はプラチナえるぼし認定を取得していること。なお、適用事業年度中に「くるみん認定」、「くるみんプラス認定」、「えるぼし認定(2段階目以上)」を取得していれば、取得した事業年度については適用可能です。